A former noted PR manager of THE NORTH FACE, reunites after some twenty years with the owner of the bar
in Sanchome where she used to work part-time!!
20代もまだ早めのころ、小澤由紀子がノックしたのは、新宿三丁目の老舗バー、ESPAのドアだった。作家、記者、演劇関係のディープな客が集まるESPAでのバイトをきっかけに、新宿ゴールデン街の雇われママに。夜の繁華街で働くこと幾数年。バイトを卒業した彼女は、いつしか有名企業の名物プレスとなっていた。あれから20数年のときを経て、今夜、ママと小澤は再会を果たす。
In her early twenties, she knocked on the door of “ESPA”, a long-established bar in Shinjuku Sanchome which is a gathering spot for writers, journalists and theater people. Working part-time there led her to become a bar manager in Shinjuku Golden Gai. After working in the nightlife area for years, she found herself becoming a renowned PR manager of a famous company. Tonight, she reunites with the owner of ESPA after twenty some years.
末廣亭の隣にあるビルの細い階段を夜な夜登っていく20代女子。
いまや日本のスポーツ衣料産業の一端を支えるゴールドウインの企業戦士でもある女史、小澤由紀子の20数年前の姿である……。
四半世紀も経とうかといういま、かつてのママと感動の再会なるか⁉︎
Suehiro Street in Shinjuku Sanchome is one of the most prestigious nightlife quarters in Tokyo. It has a long history of its own as well.
Yukiko Ozawa (Yukko), who was working part-time hard here some twenty years ago, is now busy working as a member of the operating division of THE NORTH FACE. Going out for a stroll on Suehiro Street in the early evening ……
Her career is interesting. She started a part-time job here at the bar ESPA in her early twenties and that led her to become a bar manager in Shinjuku Golden Gai. After working there day and night for a little over two years, she accepted a job at Goldwin. Then she moved to THE NORCE FACE to become a renowned PR manager and now she is in charge of product development there. The bar manager in Golden Gai found herself working hard for a big-name company. She feels no gap between these totally different jobs though. It seems that the thing is whether she can find joy in the job or the job gives her joy.
末広通り商店会での取材となれば、おもしろい人知っています! と、とある編集部での話。
その女史は、かつて新宿三丁目のESPAというバーで働いていたことがきっかけで、その系列店でもあった新宿ゴールデン街の一番街にある店の「雇われママ」のバイトをしていた経験があるそうで……。
しかも、ESPAのママとはバイトを辞めて以来、20数年も会っていないのだとか! これは、なにかが起こりそうな予感。
ほしの2号店
まずは事前取材だとばかりに、喉を潤しつつ、昔話を聞き出してみよう。向かうは鳥の素揚げが絶品の名店、大衆酒場ほしの。SAPPOROの赤ラベル大瓶を片手に、ゆっこママの若かりし頃の話を聞いてみた。バイトのきっかけは、小中からの友、べべちゃんの紹介があったから。当時、編集や出版の仕事を思い描いていたゆっこは、新聞や印刷だけでなく演劇の関係者も集うという話を聞いて、三丁目のバーの重い扉を開いたのだった。そこで出会ったのがESPAのママ、さとこさんこと野見山智子さんである……。それにしても、この生つくね、ウマすぎる!
バイトをはじめてからまだ2、3日しか経っていなかったと思う。さとこさんから手渡されたのは1本の鍵だった。3丁目の店を本店とするESPAは、かの新宿ゴールデン街にも同じ名前の店を持っていた。まだ20代前半だったゆっこは、この日から雇われママとしても働くこととなった。
しかも、掛け持ちである。時間の流れでいえば、17時くらいにまず3丁目の店を開け、掃除を済ませてからその日のまかない料理を揃える。ポテサラだったり、ガーリックトーストだったり、なにを作るかはゆっこ次第。そのための買い出しも彼女の役割だった。遅れてママが到着すると、雇われゆっこママは、まかないの一部を持ってゴールデン街へと移動。そのまま、あまたの酔客を楽しませあしらいつつ、閉店までの時間を過ごす……そんな毎日だったとか。
ESPA
ついに再会! ESPAのママ、さとこさんとゆっこの20数年ぶりの邂逅である。ESPAを辞めてからノース・フェイスの仕事に掛かりっきりだったゆっこは、気になりつつも一度も3丁目に足を踏み入れたことはなかったそう。でも、この20年のギャップは、グラスの心地よい響きとともに一気に埋まっていったようだ。さとこさんも当時を懐かしみ、忘れていたことも次々と思い出されていく。「それにしてもママ、変わらないですよ」「あなただって!」と、安物の小説にも出てきそうなセリフがまんま当て嵌まっていたりして。
Yukko was a bit nervous about seeing Satoko-san, the owner of ESPA, but a glass of beer immediately filled the gap of twenty years. They both feel nostalgia for the good old days and recall everything they had forgotten while chatting. “Anyway, you haven’t changed a bit.” “You, neither ! ” Their words were just like clichés you might find in a dime novel.
「ところでなんで私はあのとき、ゴールデン街に行くことになったんですか?」「そんなの、覚えてないわよ! でも、あのころはあなたたち女の子が多かったから、お客もたくさんで毎日楽しかったわよねー」なんて、微妙な会話を味わいつつ……ゆっこ曰く、並んでいるお酒の種類は変わったけれど雰囲気は当時のままで、古びたカウンターの傷ひとつにも懐かしさがこみ上げてくる様子。聞けば、ESPAは開店から37年も経っているそう。さとこママはじつは女優業をやっていたこともあるそうで、当時からママ目当てのお客も多かった様子。なんと驚いたのは、この日も古い馴染みのオジサマがゆっこのことをおぼろげに覚えていたこと。「え~、歴代バイトのひとりでしょ !?」なんて、3丁目の夜はこうやって受け継がれていくのでしょう。
ESPA is a long- established bar that opened thirty-seven years ago. A night memory is engraved in each scratch on the bar counter, and the ambience of the bar remains the same as it was back then. Of course, her customers are aging now. To my surprise, an elderly regular vaguely remembered Yukko that night. “Oh? You are one of the part-timers of the past, aren’t you?” The night in Sanchome will go on and on in this way.
Our time visiting in ESPA is part of the priceless Sanchome culture, an essential component of Suehiro Street. I was convinced that night amid the coronavirus pandemic that we must not let it go the way of the dodo.
さとこママとの再会を終えたゆっこの目は、20数年前を彷徨っていた。「わたし、ゴールデン街のお店にも行ってみる!」と、向かった先は一番街。古びたESPAの看板も扉も「変わってない!」。そして、カウンター越しに見つけたのはゆっこママの時代にもあったお客さんのキープボトル。そこに書いてある名も印もそのまんま。いま、店を任されているママもゆっこと同じく、3丁目との掛け持ちのようで、働くシステムもまったく変わっていないのだとか。「冷蔵庫の調子が悪いのよね」といまのママ。それを目にしたゆっこはアッと驚きの声を上げる。「それ、わたしが使ってた冷蔵庫まんま!」20数年も経てば、そりゃ冷蔵庫の調子も悪くなるでしょうねー。